札幌市の住宅街で6月、突然現れたヒグマが住民ら4人に重軽傷を負わせた。ヒグマは猟友会のハンターに射殺された。これに対し、全国から抗議の声が市に寄せられた。今年、北海道ではヒグマによる人身被害が多発する異例の事態となっている。人里に出てきたヒグマは殺されるしかないのだろうか。
北海道自然環境課によると、2021年度のヒグマによる死傷者は11人にのぼる(死者3人、負傷者8人。8月19日現在)。わずか4カ月半で統計を取り始めた1962(昭和37)年度以降、史上最多を記録している。それまでの最多は64年度の8人だった。
7月2日、北海道南部の漁業地帯、福島町のササやぶで女性(77)の遺体が見つかった。女性は前日の朝、自宅近くの畑に出かけたきり帰っていなかった。畑は林やササやぶに囲まれており、女性は畑仕事中にヒグマに襲われ、近くのササやぶに放置されたとみられる。
町総務課や松前署などによると、遺体は全身の損傷が激しく、草がかけられていた。そばに直径約70センチ、深さ約20センチの穴が掘られ、穴の中にはヒグマの毛が落ちていた。
担当者らは「ヒグマが遺体を食料として隠そうとして、何らかの理由で途中でやめたのではないか。これまでにこのあたりでヒグマに襲われて人が亡くなった事件は聞いたことがない」。
8月7日には、北海道東部の津別町で畑の草刈りをしていた66歳と39歳の女性がヒグマに襲われた。美幌署によると、頭をかまれたり殴られたりして2人とも頭部骨折などの大けがを負った。畑から150メートルほどに民家がある場所だった。
ヒグマ
国内最大の陸上動物で、日本では北海道のみに生息する。体長は2・5メートル、体重は500キロ近くに達するものもあり、本州や四国に生息するツキノワグマより大きい。北米のグリズリー(ハイイログマ)はヒグマの亜種。今年3月に総務省北海道管区行政評価局が公表した調査によると、北海道の全179市町村のうち少なくとも164市町村で、人里でヒグマが目撃された。
北海道内では古くから、ヒグマが生息する山林部で人が襲われた。
「羆嵐」
1915(大正4)年冬、北部の日本海側の苫前村三毛別(さんけべつ)地区(現・苫前町三渓)の集落が襲われた「三毛別羆(ひぐま)事件」では、2日間で胎児を含む7人が殺された。悲惨な被害を克明に記した作家吉村昭の「羆嵐(くまあらし)」などで知られる。
70年夏には、南部の日高山系で福岡大学ワンダーフォーゲル同好会のパーティーが襲われ、学生ら3人が死亡した。62年度以降で、ヒグマによる死傷者がゼロだった年は5回しかない。
ところが、今年度は死亡事案が多いだけでなく、札幌市や旭川市の中心部などヒグマが生息しないはずの市街地での被害や目撃が相次いでいる。
「狩猟や人間の里山での活動が減ったことが背景にある」
ヒグマとの共生を市民で考える「ヒグマの会」会長で北海道大学獣医学研究院の坪田敏男教授(野生動物学)は指摘する。
■春グマ駆除…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル